はんドンクラブ 運営ブログ

Mastodonインスタンス「handon.club」の運営ブログです。コラムなど,Mastodonに関する一般的な記事も投稿予定です。

電気通信事業者の登録について(前半)

はんドンクラブは電気通信事業者として届出をしています.この記事では,今後同様の届出をすることを考えている方に向け,この背景をご説明できればと思います.2部制の予定です.

電気通信事業とは

まずは電気通信事業の定義です.総務省によると,以下3つを満たすものが電気通信事業と定義されています.

【電気通信事業の定義】

  • 電気通信設備を他人の通信の用に供する」
    • 自分以外が一切使わない場合は該当しない
  • 電気通信役務を他人の需要に応ずるために提供する」
    • 個人のWebページ開設など,自己の需要(言葉は悪いが『自己満足』)のためであれば該当しない
  • 「事業である」
    • 一時的なものは該当しない

いくつか注意点を説明します.

まず,電気通信設備とは,ルータ・サーバ・無線装置・伝送路などを差します.ネットワーク機器に限らず,サーバであっても該当するのです.また,このサーバについては,他人の設備,例えばレンタルサーバクラウドサービスを使って運用する場合であっても,電気通信設備に該当するため注意が必要です.物理サーバであるか論理サーバであるかは関係ないことになります.

また,「事業である」というのは,「利益を狙っている」という意味ではありません.あくまで,継続的・反復的に行うかどうか(一時的でないか),という意味です.

以上から,Mastodonサーバを継続して運営することは,サーバを建てる場所が自宅なのかクラウドなのかによらず,電気通信事業に該当するということになります.

電気通信事業者とは

さて,電気通信事業の定義ができたところで,次は「電気通信事業者」の定義です.一般にいう「電気通信事業者」には,登録電気通信事業者と届出電気通信事業者の2つが存在します.昔は第1種とか第2種とか呼んでいたものに近いです(厳密に同じなのかどうかは知りません).さらに,「登録または届出を要しない電気通信事業」と呼ばれる電気通信事業もありますので,結果として,電気通信事業者が行う電気通信事業には以下3つのパターンがあることになります.

【電気通信事業の種別】

  • 登録電気通信事業
  • 届出電気通信事業
  • 登録または届出を要しない電気通信事業

ただし,登録電気通信事業者は,自ら伝送路を敷設する場合など,大がかりな事業を行う事業社に限ると認識して問題ありません.実際に該当する社は日本全国で300社程度しかなく,NTTグループKDDIと言ったキャリア社,JCOMなどのケーブルテレビ事業社が該当します.個人が電気通信事業を行うする場合,事実上,届出電気通信事業者のみが候補になると考えましょう.

さて,これまでの話を総合すると,個人がサーバを他人に使ってもらう場合,「届出電気通信事業」か「登録または届出を要しない電気通信事業」かという判断が必要 だということになります.もちろんMastodonサーバーも例外ではありません.「届出電気通信事業」に該当する場合は,申請書類を通信局に送付する必要がありますが,「登録または届出を要しない電気通信事業」に該当する場合,特段なんの手続きも必要ありません.

判断の方法ですが,実は非常に複雑です.私の理解ですが,基本的には以下を全て満たす場合,「届出電気通信事業者」であると理解しています.

【電気通信事業を行うにあたり届出が必要な条件(全て満たす場合必要)】

  • 「多数のユーザにサービスを提供する場合」
  • 「他人の通信を仲介する場合」
    • 不特定多数が閲覧可能な場所で表示される場合には仲介ではないため該当しない
  • 「電気通信事業を営む場合」
    • 利益を上げようとしている場合は該当する(実際に儲かっているかどうかは関係無い)

1点目はインターネットにサーバーを公開する場合は必ず該当するため,2点目と3点目が議論ポイントになります.

まず,2点目の「他人の通信を仲介する場合」です.これは例えば,2ch(5ch)のような,不特定多数が閲覧できる掲示版は「他人の通信の仲介」には該当しないとされています.しかし,通信を行う者だけが閲覧できるメッセンジャーなどは「他人の通信の仲介」に該当するとされている点に注意が必要です.つまり,Mastodonのケースでは,公開されている普通の発言(トゥート)に関する機能だけであれば該当しなかったのですが,Direct Message機能という1対1で非公開の会話ができる機能が実装されているため,「他人の通信の仲介」を行っていると判断されます.

さて,ここまで述べてきたとおり,Mastodonサーバを建てる場合,上記3点目の「電気通信事業を営む場合」に該当するかどうかで,電気通信事業の届出が必要かどうか判断すべき と考えてよいことがお分かり頂けただけたかと思います.

インスタンスにおける届出要否の判断

結果として,当インスタンスのはんドンクラブでは,「電気通信事業を営む」(=利益を上げようとしている)ものだと判断し,電気通信事業者としての届出を行いました.ただし,直接的に利益を上げようとしている訳では決してありません.では,なぜ届出をしたのかというと,運営費用の一部をカンパでまかなうことにしたためです.カンパを募ることが「営む」と判断されるかは大変微妙なところだと思います.しかし,総務省の運用では,「宗教団体が立ち上げたSNSサービスは,そのサーバ代の一部が宗教への寄付でまかなわれていると考えられることから,届出電気通信事業者とみなす」ことになっています.つまり,「間接的に」一部費用を負担してもらう場合,さらに,強制ではなく「任意で」一部費用を負担してもらう場合であっても,電気通信事業を「営む」,と認識されるのです.私は,はんドンクラブも,(宗教団体ではありませんが,)ほぼ同様の事例に該当する可能性が高いと判断しました.

ちなみに,この判断自体は,通信局へ確認した訳ではなく.個人の見解である旨はご理解ください.しかし,「登録または届出を要しない電気通信事業」であっても届出をしてはいけない訳ではありませんので,安全側に倒して届出をしておくというのは一つの選択肢になるかと思います.

届出電気通信事業者の責任

届出方法については後編の記事に書くとして,届出電気通信事業者になるとなにが起こるのかを解説します.まず第一に,申請にはいくらかの費用がかかります.その上で,以下の義務が課せられます(明らかにMastodonサーバ運営に関係のないものは省いています).

【届出電気通信事業者の義務】

  • 通信の秘密を守ること
  • 消費者を保護する,個人情報を保護すること
  • 重大な事故を報告すること

1点目,2点目は想像が付くと思います.通信の秘密については,万が一漏洩があった場合,30日以内に総務省報告が必要な点だけ注意しておきましょう.3点目だけ注意が必要なので詳しく説明したいと思います.

電気通信事業者は,サービスの中断などの事故が発生した場合,総務省に報告する義務が生じます.報告には「即時報告」と「四半期報告」があり,それぞれ以下の要件で定義されています.

  • 時報告 : 以下(*)に該当する場合
  • 四半期報告: 影響利用者数 3万 以上 又は 継続時間 2時間 以上の場合

(*) 総務省|安全・信頼性の向上|重大な事故の報告

時報告については,普通のMastodonインスタンスでは該当することはほぼないと思います(ユーザが3万以下の場合,絶対に該当しないためです).

注意が必要なのは,四半期報告です.3万人以下の小規模インスタンスであっても,2時間以上継続して障害を発生させた場合は,総務省への報告が義務となるのです.義務を怠った場合,罰則規定もあります.メンテナンスなど予告をしたものは該当しないと思われますが,本当にオペレーションミス等で2時間以上サーバを落としてしまった場合は,必ず報告をするようにしましょう.

おわりに

まずは電気通信事業者とはなんぞや,という点に着目して記事を書きました.こんなにボリューミーになるとは思っていなかったので自分でも驚いています.次は届出方法について開設したいと思います.

なお,法律に関することは以下のPDF(電気通信事業参入マニュアル)が全てです.電気通信事業者に該当する可能性がある場合,当ブログ記事だけでなく,必ず原本もご確認下さい. http://www.soumu.go.jp/main_sosiki/joho_tsusin/policyreports/japanese/misc/Entry-Manual/TBmanual02/entry02_01.pdf